バルバスバウをご存じですか?船の先端の下のほうについている丸い物体です。
バルバスバウは英語で、Bulbous Bowと書きます。Bulbousというのは「丸くふくらんだ、球根の」という意味で、Bowは船舶用語で「船首」という意味があります。日本語では「球状船首」と書かれることが多いです。

バルバスバウの役割

バルバスバウの役割は船のタイプによって少し異なります。

スリムで中速・高速な船(コンテナ船やフェリーなど)では、
船が進む際に造る波が大きくなるため、これを打ち消して抵抗を減らすのに役立つ

ぽっちゃりした低速な船では、(タンカーなど)では、
できるだけ船のまわりの水の流れをスムーズにして抵抗を減らすのに役立つ

※船の抵抗に関してはこちらの記事をご参照ください⇒『船が進むのをさまたげる3つの抵抗とその対策法』

バルバスバウの歴史

バルバスバウはもともと武器だった!?

バルバスバウの前身ともいえるものは紀元前の古代ギリシャの海戦までさかのぼります。
ram(日本語では衝角しょうかくという金属でできたツノのようなものを船首につけて、相手の船へ体当たりすることで穴をあけて船を沈めたり、当時オールでこぐ相手の船の横側を攻撃し推進力を奪ったりしていました。

武器から推進性能向上のためのパーツへ

やがて、ramは攻撃以外の目的で通常の船にも役に立たないかと考えられるようになりました。
1778年にフランスの科学者チャールズさんは、船の抵抗を減らすのに役立つのではないかと発表しましたが、実際に建造で取り入れられることはありませんでした。しかしその後、1867年にイギリスのエンジニアであるフルードさんがこの考えを支持し、数々の実験を行った結果、ramが抵抗を減らすことは証明できませんでしたが、代わりに船の長さとスピードとの関係を解明しました。これが有名な「フルード数」です。

話がそれましたが、フルードさんの研究をもとに、1905年についにアメリカ海軍研究所のデビット・テイラーさんが、高速の条件下では船首につけた丸いものが造波抵抗を減らすことを考案しました。(同時期にロシアでも、フルードさんの研究をもとにユルケヴィッチさんが考案していました)

以降は、ドイツやフランス、アメリカの客船に適用されたり、日本では戦艦ヤマトにも適用されていきました。

日本人、タカオ・イヌイの大いなる貢献

1961年には東大の乾 崇夫(いぬい たかお)先生が、明石海峡岩屋沖において、バルバスバウをつけた「くれない丸」と姉妹船「むらさき丸」の並走実証実験を行い、実用化にあたって重要なデータを発表しました。乾先生は、船型開発と合わせて波を消していくことを焦点に(波なし船型といいます)どんどんバルバスバウを開発していきました。これが”Inui Bulb”として世界的に有名になり、現代のバルバスバウにつながっています。”Takao Inui”の名は船舶工学の世界では知らない人はいないほど有名です。

バルバスバウの今後

バルバスバウのない船が最近増えてきています。
理由はいろいろとあると思います。
1つには、造るのに手間がかかること。バルバスバウの大きく曲がったパーツは機械溶接では造れず、熟練の職人の手によって1品1品手作りです。その職人が毎年少なくなっているのも現状です。工期や厳しい価格競争にも影響するでしょう。
もう1つには、船型開発が進み、バルバスバウがなくても波が立ちにくい船型ができるようになったことです。船首がまっすぐ下に降りた形(Vertical Stem)が多いです。昔の豪華客船のようですね。

バルバスバウのない船が増えていくのはなんだか寂しいですが、船の開発が今も活発に続けられ進化しつづけているのは素晴らしいことですね。
 

★以下、バルバスバウに関して詳しく書かれている論文・資料などを紹介します:

『The Social History of the Bulbous Bow』
:バルバスバウの歴史についてどこよりも詳しく書かれている。登録すれば無料で読める。
『Bulbous Bow Design & Construction』
:バルバスバウの概要、形状、設計パラメータ、建造風景写真などがまとめられている
『高速客船くれない丸におけるWaveless Bulbの船首波打消しに関する研究』
:乾先生によるくれない丸とむらさき丸並走実験の論文
『船型学50年 – 波なし船型 – 』
:乾先生による”波消し”の話と実用への応用例
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