バラスト水とは?

船はある程度沈めた状態で航海しなければ、強い波風を浴びる海上で安定して走ることはできません。荷物を積んでいるときはある程度重量がかかり沈んだ状態で安定しています。しかし荷物を下ろして船がカラッポになると、船が軽くなり水面に浮きすぎてしまいます。そうなると航海が不安定になるだけでなく、プロペラやバルバスバウが水面に出てしまうと推進効率も大幅にダウンしてしまいます。

ではどうすれば?ということで、昔の人は下した荷物のかわりに石や砂袋や金属を積んで重し代わりにしていました。この重しのことを「バラスト」といいます。※英語ではBallastと書き、船のバラストの意味から派生して”安定させるもの、心の安定”などの意味もあります。

やがて、バラストは石や砂袋から”水”へ替えられました。石や砂袋だと上げ下ろしがとても大変なうえ、航海中に船が揺れて石が大きく転がると船全体のバランスを崩す危険もあったのです。水なら取り入れたり排出したりするのが簡単ですね。この水のことを「バラスト水」といいます。

バラスト水がどうして海の生態系を壊すのか

船によって移動させられる生物たち

ある港Aに到着し、運んできた荷物を下すとします。代わりにバラスト水を入れます。そして次の港Bへ行き、別の荷物を積む代わりにバラスト水を排出します。すると港Aでくんだ海水が港Bに排出されることになりますね。海水の中には小さな微生物や細菌、生物の卵などが含まれているため、それらが(環境さえ合えば)本来の生息地でない港Bで生息してしまうことになるのです。こうして、在来種が外来種にやられて世界中で問題となりました。主に貝類や海藻類、ヒトデ、プランクトン、ミジンコ、コレラ菌などが大きな影響を及ぼしました。

世界をおびやかす日本のワカメ

日本ではよく在来種が外来種にやられて・・・という報道やTV番組などがありますが、決して日本の生物の繁殖能力が海外に比べて弱いわけではありません。バラスト水問題で大きく取り上げられた例の1つに、日本のワカメがあります。欧米やニュージーランドの海に日本のワカメが大量発生し、漁業の網に絡まったり養殖カゴに付着して養殖生物が酸欠死したりと、大変な事態を巻き起こしました。

バラスト水の入れ替えは海の生態系を壊すだけでなく、各国の漁業経済にまで打撃を与えるのです。

バラスト水管理条約の発効

こうした問題を受けて、IMO(国際海事機関)が動き出しました。最初の審議は1988年に行われ、1991年にはバラスト水に関するガイドラインが策定、2004年には「バラスト水管理条約」が採択されました。バラスト水管理条約の発効条件は「30か国以上の批准と、批准国の合計船腹量が世界の商船船腹量の35%」でした。(条約の”採択、批准…”などのワードの意味はこちら

ところが、この発効条件を満たすのに実に12年もかかってしまったのです。なぜなら、条約の対象がこれから新しく造られる船にだけ要求するものではなく、既に就航している船にも要求するという内容だったからです。
バラスト水管理条約の要求として”バラスト水の排出基準”というのがあり、一定の体積の水の中に細菌や微生物がいくら未満でなければならない、といった内容であるため、バラスト水を処理する装置を船に搭載しなければなりませんが、既存の船すべてにそういった装置を取り付けるのはハードルが高かったのです。そして2013年に既存船に対する搭載期限を緩和することが決まり、2016年にとうとう発効要件を満たすことができました

※なお、搭載期限がくるまでの間バラスト水はこれまで通り排出していいわけではなく、陸地から200海里(不可能なら50海里)離れた洋上でいったんバラスト水を入れ替えることが定められています。

バラスト水処理装置の種類

さて、どのようにバラスト水の中の細菌や微生物を取り除くか、各企業が処理装置の製作に乗り出しました。以下に3種類紹介します。いずれもフィルターがあったほうがその後の処理効率がアップするため、フィルターは重要な役割です。

フィルター+薬剤

バラスト水を海から取り込むときに、まずフィルターで大きな生物や不純物をこし取ります。その後、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を含んだ殺菌剤を投入して細かいバクテリアを殺菌します。
バラスト水を排出するときは、塩素の水を排出すると環境によくないため、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を入れて残留塩素を還元してから海に排出します。

フィルター+UV

バラスト水を海から取り込むときに、まずフィルターで大きな生物や不純物をこし取ります。その後、UV(Ultra Violet, 超短波紫外光)をあてることで、微生物の増殖能力を破壊し殺菌します。

フィルター+電気分解方式

バラスト水を海から取り込むときに、まずフィルターで大きな生物や不純物をこし取ります。その後、バラスト水を電気分解して殺菌する方法です。電気分解すると、陽極側に強酸性電解水が生成されます。この強酸性電解水には塩素ガスが溶け込んでおり、塩素ガスから生成される次亜塩素酸(HClO)が微生物を殺菌消毒してくれます。また、陰極側には強アルカリ性電解水が生成され、こちらはタンパク質系・脂質系の汚れに効果のある水酸化ナトリウム(NaOH)が生成されます。

船上での水処理が陸上に比べて難しいワケ

こういった水処理は陸上のプラントなどでも既に存在しているのですが、それをそのまま船に持っていくだけで適用できるわけではなく、船ならではの難しさがあるのです。それは次のような理由です。

船上でバラスト水を処理するのがむずかしい理由

  1. 船のスペースは限られているため、処理する水が多いわりに処理装置の大きさは小さい
  2. さまざまな水域を航行するため塩分濃度が異なり、制御が難しい
  3. 長期航海だと処理後に生き残った生物が再び増殖しはじめる

便利でコンパクトで確実な処理装置を工夫して開発してくれている企業達に感謝!ですね。

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