津波はただの“高い波”ではない

津波は“海岸に打ち寄せる大きな波”と勘違いされることがありますが、全く別物です。高波、高潮との違いをもとに、それぞれのメカニズムを見てみましょう。

高波のメカニズム

高波は、強風によって波があおられて高い波となります。このとき水分子は円運動をしています。上下方向(水の水深方向)でみると、円運動はだんだん小さくなっているため、海の深いところでは魚は高波の影響を受けずに泳ぐことができます。

高潮のメカニズム

高潮は、「吹き寄せ効果」と「吸い上げ効果」の2つが関係しています。

まず強風によって水が岸のほうへ集められるのが「吹き寄せ効果」です。このとき水は表面だけ風に沿って運ばれている状態で、水分子の速度は上下方向(水の水深方向)でみるとだんだん小さくなり、海の深いところでは魚は高潮の影響を受けずに泳ぐことができます。

つぎに、台風などの低気圧によって海面が吸い上げられ、いつもより水位が盛り上がるのが「吸い上げ効果」です。いつもより気圧が小さくなることで大気が海面を押している力が弱くなり、そのぶん海面が上に盛り上がるようなイメージです。

これら2つの効果が合わさって、沿岸部では水位が高くなります。

津波のメカニズム

高波、高潮は、上下方向(水の水深方向)で見ると、水分子の速度の大きさに違いがあることがわかりました。(”速度勾配がある”、という言い方をします)
流体力学の世界では、速度勾配があるとき、粘性流体である水には「粘性力」という力が働きます。これは水分子どうしの間に働く摩擦力のようなものです。これによって岸に近づくにつれて勢いが減衰していきます。

しかし津波は、海面から海底までの水分子の速度が一様な状態で進みます。地震が原因となって、海底からごっそり水が動かされ、すべての水分子がエネルギーをもった状態となるためです。上下方向(水深方向)で速度勾配がないため粘性力が働かず、水のエネルギーが弱められることなく何キロも進むのです。

実際1960年には、チリ地震による津波が日本の東北まで押し寄せてきて、しかも最大6.1mもの大きさが観測されたことがありました。ほぼ丸1日経っても、1万km以上離れていても、エネルギーが衰えることなく進みつづけるのが津波のこわさです。

巨大な水の塊がスピードを落とすことなく進んでくるのが津波

5mの津波は5mの堤防では防げない

高波や高潮の場合、堤防ちかくの浅い海に到達すると、海底では水が沖に戻るような流れが発生しています。そのため、5mの高波や高潮は5mの堤防で防ぐことができます。

しかし、5mの津波は5mの堤防では防ぐことができません。理由は以下のとおりです。

津波は、水分子の速度が海面から海底まで一様のまま堤防まで到達し、ぶつかります。(高波や高潮とちがって、沖へ戻るような流れは生じません)堤防にぶつかると、それまでの水分子の運動エネルギーが0になり、その分のエネルギーは位置エネルギーに変換され、上に盛り上がります。具体的には約1.5倍の高さに盛り上がることになります。つまり、5mの津波が堤防にぶつかると約7.5m高さまで盛り上がり、堤防をやすやすと乗り越えてしまうのです。

津波の心得

  1. 津波の大きさは地震の大きさには比例しない
  2. 第何波が大きい津波になるかはわからない
  3. 見た目で判断できない

1.津波の大きさは地震の大きさには比例しない

大きな地震が来たら大きな津波がくる、と思いがちですが、津波の大きさと地震の大きさは必ずしも比例しません。過去に、地震としては規模の小さいものでも大津波が来たという例はあります。

2004年の和歌山紀伊半島沖地震では、地震の規模はマグニチュード7.1(震度5弱)で気象庁からは津波警報が出されていたにも関わらず、ほとんどの自治体が”地震が小さいから津波も小さい”と判断し、避難勧告を出さなかったという事実があります。

ひとりひとりが津波に対して正しい知識を持っておくことが大切ですね。

2.第何波が大きい津波になるかはわからない

津波はさまざまな周期の波が複数押し寄せ、たがいに共振・増幅します。それは湾岸の形や深さなどによっても異なるため、第何波が大きい津波になるかを予想するのはカンタンなことではありません。”第1波は引き波で、第2波~第3波が最も大きい”と思っている人も多いようですが、第1波が最大なこともあれば、第16波が最大なこともあります。

実際、2003年の十勝沖地震では、第1波を観測してから約4時間後に最高波を記録しています。素人判断で「もう安全だ」と家に帰ってはいけない理由がここにあります。

3.見た目で判断できない

大津波が来ている様子などは目では見えにくいものです。とくに遠浅の海だと海面全体がだんだんと盛り上がっていくため、目で見ていても大津波が来ていることがわかりにくく、気づいたときには大量の水が街中に押し寄せて流れます。よく海外の観光ビーチなどで津波の避難勧告を受けてものんびりと海を眺めている人がいる映像が見られますが、大変危険で逃げ遅れる原因となります。

自分の目を過信してはいけないことを覚えておかねばなりません。


以上のことから、津波の避難指示が出た場合は必ずすぐに高台まで避難し、許可が降りるまで勝手に家に帰らないことが大切です。

~おまけ(津波を乗り越える巡視船の映像)~

昔から「地震が来たら船を沖に出せ」という言い伝えがあります。津波がやってくる方向に向かって沖に進んで波を乗り越えていくことで船を守る方法です。沿岸部に停泊させていたら津波の勢いで船が大破してしまうからです。(※しかし小さい船だったり操縦を誤ったりすると、津波に揉まれて転覆する危険性も十分にあります)

東日本大震災のときの津波を乗り越える海上保安庁の巡視船「まつしま」の映像が残っています。津波が目で見えにくいこと、一様に進んでくるエネルギーの大きさなどを感じ取ることができます。

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