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寿命を迎えた船の行き場

船の寿命は約20年です。10年で廃船になる船もあれば、50年たっても操業している船もありますが、設計上は20年を想定寿命として強度計算している場合が多いです。

寿命を迎えた船は解体されるため、解体ヤードへ運ばれます。主な解体ヤードは、インドのグジャラートや、バングラデシュのチッタゴンなどの干満差の大きな海岸にあります。船は満潮時に全速力で浜に打ち上げられ、放置されます。その後、潮が引けば解体に取りかかることができます。(このやり方を”ビーチング方式”といいます。きちんと解体ヤードが整備されている国ももちろんあります)


バングラデシュ・チッタゴン上空写真(google mapより)

船の墓場の悲しい現状 ~危険に晒される労働者、児童労働、環境汚染~

ところがこの解体ヤードでの実態に非常に問題があり、世界中から批判が殺到します。特にバングラデシュの解体場です。ヘルメットをしていないどころか、素手に裸足での解体作業、その辺の鉄くずで作ったような解体道具・・・とてつもなく大きな船をなんと人海戦術で解体しているのです。しかも小さな子供までこんな環境で働いています。


はだしで作業する子供たち

大きな鉄ブロックを解体するときは、ところどころに穴をあけたりバーナーで切ったりして隙間からチェーンをいれこみ、それをトラックや人力で引っ張って落とします。すると意図せぬ部分まで落ちてきたり、鉄のかたまりが吹き飛んだりすることがあり、手足を失ったり死亡する労働者が頻出します。また、船の中には人体や環境にとって有毒な、ポリ塩化ビフェニルや有機スズ、水銀、鉛、アスベストなどの物質が含まれており、海に垂れ流しになるほか、何も知らない労働者達は健康被害にもさらされるのです。


ロープで引っ張っている様子(人海戦術)

児童労働については、雇用主が無理やり子供を連れていって働かせているというよりは、お父さんやお兄ちゃん、親戚の人が働いているから一緒についていく、といったケースが多いようです。バングラディシュはまだ貧しいエリアが多く、教育にかけるお金どころか生活にかけるお金も払えない状態の家庭が多くあります。そんな状況で、子供だからといって働かないという選択肢はなく、家計を支えるために出向いていくのが当然という風潮です。

なお解体した際に出た鉄くずなどのスクラップは、貧しい国にとって重要な資源です。これを売ってお金にしたり、町の構造物などの資源にしたりします。

先進国が出した巨大な廃棄物を、世界で最も貧しい国が危険な目にあいながら処理しスクラップにありつく船の墓場の悲しい現状です。

香港国際条約(シップリサイクル条約)の採択

こういった状況を受けて、さまざまな国際機関が動き出しました。
バーゼル条約に、船の解体に関して環境や健康に配慮するガイドラインが追加されました。また、ILO(国際労働機関)は、労働者を危険な環境から保護するよう、船舶解体に関するガイドラインを採択しました。
なかでもIMO(国際海事機関)は、「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約(通称シップリサイクル条約)」を採択し、つぎのような内容を表しています。

  • 500国際総トン以上のすべての船舶は、船舶に存在する有害物質等の概算量と場所を記載した一覧表を作成し、維持管理すること
  • 所管官庁により承認された船舶リサイクル施設でなければ船舶を解体・リサイクルすることはできないこと

 

この条約の発効条件は次の3つで、これらを満たしてから2年後に効力を生じます。
①15か国以上が締結すること
②締結国の商船船腹量の合計が世界の40%を占めること
③締結国の直近10年における最大年間解体船腹量の合計が締結国の商船船腹量の3%以上であること

現在はまだ、ノルウェー、コンゴ、フランス、ベルギー、パナマ、デンマークの6か国しか批准していないため、条約発効には至っていませんが、今後EU諸国やインド、中国、トルコ等の批准によって進んでいく見込みです。

※条約の”採択、締結、批准、発効”のちがい

採択: よい意見や案などを選んでまとめること
締結: 国の代表者が署名し、条約を取り結ぶこと
批准: 条約内容に対して、国に最終的確認・同意をさせること、国内でも条約内容を取り入れて守ること
発効: 条約内容が実際に行使されること

2020に向けて

日本はまだ批准はしていませんが、批准に向けた動きとして、国内でシップリサイクル条約にもとづいた法律「船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律」を成立させました。(2018/6/18)

また、まっさきにシップリサイクル条約に批准した国ノルウェーでは投資家の意識も高く、不適切なビーチング方式でスクラップ化しようとする船会社の株はすぐに売却する動きを見せています。

今後は、主要解体国であるインド、中国の締結によって2020年をめどに条約発効へ向けて進んでいく模様です。

解体ヤードを整備する余裕もない貧しい国だと今後仕事すらもなくなっていくのでしょうか、その点が不明ですが、いずれにせよすべての船の墓場において、労働環境も地球環境も改善されることを願っています。

 
こちらのサイトのResearch Reportにて、バングラデシュでの船舶解体ヤードの実態がくわしくレポートされています。写真も載っていますので、ぜひ見てみてください。
『SHIP BREAKING IN BANGLADESH ‘Research Report’』

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