人類が船というものに乗り出した頃、推進器はまだ無く、人力でした。それには櫂と櫓という2種類の細長い道具が使われていました。
櫂(パドル・オール)
古代遺跡などにも登場するのが、櫂と呼ばれる木の長い棒です。中国の河姆渡遺跡から完全な形の櫂が発掘されたことがあります。また、紀元前3000年代、古代エジプト・メソポタミアでは壁画にしっかりと描かれています。
はじめは、こぎ手が船の進行方向を向いて座り、棒の先に幅広い板がついたような櫂で水を押して進むスタイルでした(いわゆるカヌーなどの”paddle”(パドル)です)。やがて、こぎ手が船の後ろを見て座り、船のふちに櫂の支点を固定して、より細長い櫂を引っ張るこぎ方(いわゆるボートなどの”oar(オール)”です)のほうが効率がよいことが判明し、外航用大型船はみなこのスタイルになりました。押すより引くほうが確かに効率は良さそうなのが想像できますね。それにしても、人力で外航までしていたとは驚きです。
櫓
一方、櫓というのは東アジアを中心に使われてきました。櫓は主に船尾に取り付けます。複数ある場合は左右にとりつけるケースもあります。空中にでている部分を櫓腕、水中に沈めて推進力を生み出す部分を櫓脚(または櫓羽、櫓べらなどとも)、櫓を船のふちに固定する支点となる穴を入子、そこに差し込む杭を櫓杭といいます。櫓脚の断面は片面がふくらんでいて今でいう”翼型”のような形状だったため、左右に動かす際、少しひねりを加えることで揚力が生まれ、推進力を生み出していました。したがって櫂よりも推進効率が高く、西洋に比べて体が小さいアジア人にとっては知恵を絞った道具だったのかもしれませんね。(→追記)当時の体格の違いは不明ですが、筋肉の付き方の違いや水流・環境の違いにより、アジアのほうが適していた可能性もあります。コロンブス以前のアメリカ先住民も五大湖で櫓を使用していたことが知られており、一概にアジアのみとは言い切れません。
※翼形状から揚力が生まれる仕組みについては『プロペラキャビテーション(空洞現象)とは』で少し触れています
(2021年12月追記)櫓(ろ)について詳しいページを見つけました⇒『【究める】櫓の研究活動』
数少ない文献です。
ありがとうございました。
後、カヤックのパドルについても併記して欲しい。
ありがとうございます。少しですがパドルも追記しました。
櫓は船尾の左側のイボ状の突起の載せて漕ぐ 櫂に比べ楽に長距離を移動できる しかし前進のみである
櫂は船尾より3尺前の左側の輪状のロープに通して丁字型の取っ手で八の字をかくよう漕ぐ
比較的小舟に向き小回りがきき 後進もできるので短距離移動に向いている
より詳しいご説明ありがとうございます。仰る通り、櫓は方向転換や旋回は得意ですが前進のみで、後進するには櫓の向きを反対にセットしなければなりません。(逆櫓、といいますね)
辞書を引いても分からなかった櫂(かい)と櫓(ろ)の違い
一目で分かるイラスト有難うございます
嬉しいお言葉ありがとうございます。
イラストが左右逆じゃないでしょうか。
櫓の漕ぎ手は左を向いている(左手が船尾側になる)と習いました。
今ググってみても、ほとんどの画像で漕ぎ手は左を向いています。
違ってたらすみません。
コメントありがとうございます。櫓は船尾中央に取りつけて一人でこいだり、左右に取り付けて複数でこいだりもしていたようですが、仰る通り和船の写真などを見るとほとんど左寄りにつけてあり、こぎ手が左舷側を向いていますね。ということでイラストを修正しました。ご指摘ありがとうございました!
「櫂は三年櫓は三月」のことわざの意味はわかりましたが、櫓って何だっけとおぼろげだった認識がこちらを拝見してスッキリしました。
わかりやすいイラストで一目瞭然です。
ためになりました、感謝です。
ありがとうございます!「櫂は三年櫓は三月」のことわざ、逆に勉強になりましたm(_ _ )m
ちょっと蛇足になりますが、当時の西洋人とアジア人ではアジア人のほうが体格がよかったそうです
当時のデータだと平均身長がアジア系が164西洋系が160くらいというデータを見ました
西洋人が横にも縦にもデカいというのは、割と最近の食糧事情が改善してきたときの話で
それまでは食糧豊富のアジア系のほうがガタイもよかったようです、食糧法不な山岳民族とかはまた別でしょうが
今でもやはりご飯たくさん食べて運動しまくってる人が人種関係なくガタイがいいです
遺伝はありますけど同じ量食べてると人種での差はそこまでないかと、まあ多少はありますけど。欧米人が太っているのも食事の影響が大きいです。アメリカ人でも日本うまれ日本育ちだとそんなに太りません
単純に櫓に関しては技術的にすぐれていただけかと、大きい力の強い人でも効率の悪い道具を使う意味はありませんからね。かわりに西洋系の船は帆の仕組みは非常にすぐれていたようです。
それぞれの文化ごとにすぐれた技術の違いがあっただけではないでしょうか
ただいまいち此方のほうが効率がいいというのも特殊な場合の話であって、単純に西洋の気候や海流では
逆に足をとられて効率がわるかったのかもしれませんが
コメントありがとうございます。大昔の平均身長の違い、興味深く拝読しました。一概に体の大きさというより、農耕民族・狩猟民族などによる筋肉の付き方の違いもあるかもしれませんね。
仰る通り、気候や水流を考慮し、それぞれの文化ごとに適した技術が発展したと考えるのが自然ですね。本文に追記致しました。もっともなご意見ありがとうございました。
>>左右に動かす際、少しひねりを加えることで揚力が生まれ、推進力を生み出していました。したがって櫂かいよりも推進効率が高く
ここのところなんですけど、なんで効率がいいんでしょうか。
揚力がうまれるのはわかるんですけど、それとオールのように垂直に水を当てる場合だとどっちのほうが効率がいいのか
無駄に抵抗受けないから結果的に効率がいいって意味なのか
同じだけの力でも推進力が違うって意味なのか
水上に出す必要があるオールに比べて、常時水中のままで推力を生み出せる櫓のほうが推進器としての効率が高い、という意味で書かせていただだきました。
和船のエネルギー効率を研究した論文があって(日本航海学会論文集134巻、川崎規介ほか、 2016), 効率が高いそうです。歩くよりも効率が良い、というのが結論で、びっくりしました。これが疲れない理由のようです。
貴重な情報提供ありがとうございます!
櫂よりも櫓のほうが、覚えるのが難しいとおもうのですが。なぜ櫂3年櫓三月ということわざがうまれたのでしょう。
櫓は習得するまでは早く、小学生でも練習すれば扱えるようになるそうですよ。しかし櫂(オール)は水中で漕ぐ時の深さや水面上(空中)で回すときの高さなど、毎回均等に正しい位置で扱うのは難しいそうです。(水面上に出たら急に軽くなるでしょうしね)
私も実際に漕いだことがないので想像するしかありませんが、ことわざになるくらいですから櫂(オール)は見た目より難しいのだと思いました。
子供の頃に父親が手作りで作ってくれたパドルボート(二人乗り)で櫂での海での遊びに親しみ、更に父親に櫓(ろ)の漕ぎ方を習って時々知り合いの伝馬船を借りてそれで釣りに行ったりしました。
その後大学で学内のスポーツ大会で友達と舵手付きフォアの部門に出場して優勝した事があります。
それぞれの筋肉の使い方について区別するとパドルボートは腕にのみ(少し背筋にも)負担がかかり、フォアのボートは滑席(スライディングシート)を生かして下半身に(特に大腿四頭筋)負担がかかり、腿がパンパンに張ります。
上腕二頭筋もかなり使います。
櫂の漕ぎ方の難しさは、波が高くなると(特にオールの長いフォアのような船では)櫂の先が海面から丁度良い深さを切るようにするのが困難だと言う所ですね。
櫓は両足を前後に踏ん張って上半身を揺らして、全身の筋肉を(腕も肩も背筋も大腿四頭筋も大臀筋も)全部使って
漕ぐのでスピードを上げるとかなり疲れますが、長距離を長く漕ぐ時はリズムを取って大きく身体を前後に(櫓腕を顎まで引き付けて)揺らして漕ぐ事で疲労を防ぎながら距離を稼ぐ事も出来ます。(要するに筋肉のバランスを全身に分散して使うと言う感じですね。)波が高くても櫓の先を水から抜かなくてもコントロールできますので時化には圧倒的に櫓(ろ)の船の方が強いです。
父はいわゆるお坊ちゃんでしたが小学校の頃実家の近所で船大工が作っていた伝馬船を勝手に買って(もちろんお代金は親に支払わせて)しまい、それで向かいの島まで直線で片道4km、途中には激しい渦潮が逆巻く瀬戸も乗り越えて友人の家まで一人で漕いでよく遊びに行っていたらしいです。
僕が子供の頃にはその瀬戸内海の父の実家の近所で暮らしていました。そこは昔村上水軍が跋扈していた地域で、僕に櫓や櫂の漕ぎ方を教えてくれた父が、「この辺を村上水軍が八丁櫓の船で海賊行為したり、毛利軍を乗せて長距離を移動したりしたんだ。」と教えてくれましたが、そのスピードや漕ぎ方によっては長距離を稼ぐ事が出来ると実感したものでした。取りとめもなく昔話ですみません。
貴重な体験談をありがとうございます!
櫂と櫓の具体的な筋肉の使い方の違い、理解しました。わかりやすくお伝えいただきありがとうございます。
お父様のお話も面白く拝読しました。光景が浮かんでくるようです。Disco3様も良い経験をたくさん積んでこられたのですね。
旧制中学を卒業する寸前に志願して帝国海軍に志願して予科練に入隊した父ですが、教練のカッター漕ぎで丈夫な樫の木の櫂を腕力に任せてへし折った、と言うのが自慢でした。
今では父の郷里の漁村では漁師といえども伝馬船を櫓で操れる人は少ないです。
昔なら単気筒のディーゼルの小さな漁船には機関が故障した際の備えに必ず立派な櫓が備えてあったものですが…。
自分が子供の頃に教わった櫓の漕ぎ方は多分今でも忘れずに、何か機会があれば櫓の小舟で沖まで出られると思いますが。
そういうある意味役に立たない?船の文化を子供の代には伝える事が出来そうにないのが残念です。
はじめまして。こうして見ると、櫓は、ある意味一枚翼のスクリュープロペラの内輪船、櫂は外輪船みたいですね。私も「櫂は三年櫓は三月」のことわざからこのページを拝見させて頂きましたが、このことわざは寧ろ「適切な技術は人の労力を減らせる」みたいな意味だと思っていました。
はじめまして、コメントありがとうございます。内輪船と外輪船のよう、良い例えですね!
ことわざの件は色々な解釈があるようですが、言われてみるとそのようにも取れますね。興味深く面白い視点をありがとうございます。
以前、上皇明仁様が上手に櫓を操って船を進めている映像を見た事が有ります、とても上手に操っていて驚きました、操るお姿が生々して素敵でした。
コメントありがとうございます!それは素晴らしいですね。映像をご覧になったとのこと、貴重な体験でしたね。