人力、風力から蒸気へ
大昔の船は、
やがて産業革命に伴い蒸気機関が発明されると、1800年ごろ、ついに船にも実用化されるようになりました。蒸気の圧力差を利用したピストン運動で外輪船の外車を回すしくみです。こうした船を”蒸気汽船”と呼びました。
1850年ごろになると蒸気機関の限界が見え始め、”タービン”が開発されました。羽根車に高圧の蒸気を吹き付けて回転させ、プロペラの回転へ利用するしくみです。”蒸気タービン”の誕生です。
現代では蒸気タービンよりも高出力、高効率のエンジンがどんどん開発されています。以下に紹介します。
現代の船を動かしているエンジンの種類と特徴
主流のディーゼルエンジンをはじめ、ガスタービン、電気推進、原子力推進などのエンジンがあります。最近では1隻に1種類とは限らず、用途によって組み合わせたハイブリッド型の船も開発されています。
◆ディーゼルエンジン
ディーゼルエンジンの概要
圧縮して高温・高圧となった空気に重油を噴射して爆発を起こし、その圧力でピストンを上下に動かしプロペラ軸の回転運動へとつなげるしくみです。ドイツのルドルフ・ディーゼルさんによって開発され、1900年ごろに実用化されました。
ディーゼルエンジンには2サイクルと4サイクルのものがあります。(Wikiご参照→2サイクル 4サイクル)
2サイクルは低速回転する大型のエンジンで、4サイクルは高速回転する中・小型のエンジンであることが多いです。外航船や大型商船の場合はほとんどが2サイクルのエンジンを使用しています。
ディーゼルエンジンのメリット◎
- 巨大化できる
- 燃料のコストが安い
- 乗り物のエンジンの中で最もエネルギー効率がよい
➡コストの安い(=純度の低い重油である)C重油を使えるため、経済的です。ただし、国内のみを航行する内航船については連続運転時間がそれほど長くないため、エンジンの保守・メンテナンス費用を考えると初めから(より純度の高い重油である)A重油を使用したほうがトータルで安い場合もあります。
➡上下運動を直接回転運動へとつなげるため、エネルギー効率は約50%で、地球上の乗り物のエンジンの中では最も効率が良いといわれています。残りの50%は熱として逃げてしまいますが、その排熱もエコノマイザーという装置を使って船内で有効活用(ボイラーの水の加熱など)することが多いです。※ちなみに自動車の場合、性能の良いものでもエネルギー効率は40%前後です。
ディーゼルエンジンのデメリット△
- 排ガス問題
- エンジン重量が大きくなってしまう
➡排ガスに大気汚染の原因となる有害物質(二酸化炭素CO2、窒素酸化物NOx、硫黄酸化物SOxなど)が含まれており、適切な処理が求められています。
➡圧縮比が高いためシリンダーの強度を高める必要があり、エンジン重量が大きくなりがちです。あまり船体重量が大きくなると燃費が落ちてしまいます。したがって上でも書いたように、エコノマイザーなどで排熱を再利用してボイラーで蒸気を作りタービンを回して発電するなど、船全体の燃費改善につなげて努力をつづけています。
どんな船に適用される?
ディーゼルエンジンは船のエンジンとしては最も一般的で、多くの一般商船に幅広く適用されています。とくに外航船、大型商船に適用されます。一度航海に出たら何日も何週間も稼働しつづけなければならないため、過酷な条件下でも耐えられるエンジンであることが求められます。
◆ガスタービン
ガスタービンの概要
圧縮して高温・高圧となった空気に重油を噴射して爆発を起こし、その圧力をタービン(羽根車)に吹き付けて回転させ、プロペラ軸の回転へとつなげるしくみです。もともとは飛行機のエンジンとして開発されたものを、1947年にイギリスが軍艦に搭載したのをきっかけに実用化されるようになりました。起動させると、まさしく飛行機のエンジンのようにキーンという音がします。
ガスタービンのメリット◎
- 小型なのに大出力
- 立ち上がりが早い
- エンジンの取外し、整備がカンタン
- 純度の高い石油を使用するため、ディーゼルエンジンに比べて排ガスがクリーン
➡船内のスペースは限られているため、小型のエンジンだと配置しやすく、設計の自由度も上がります。
➡エンジン稼働後、短時間で最大速度までもっていけます。
ガスタービンのデメリット△
- エネルギー効率が比較的悪い
- 燃料のコストが高い
- 低速運転が苦手
- 逆回転ができないため、プロペラの羽の角度を変えられる”可変ピッチプロペラ”が必要となる
- 排ガスの温度が高温
➡ディーゼルエンジンに比べると、タービンを回す分、燃費効率は下がります。
➡船舶の場合でも、軽油またはA重油などの純度の高い石油を使用するためコストが高くなります(飛行機だとさらに純度の高い灯油などを使用します)
➡排ガス規制があるため、高温の排ガスをそのまま外に排出できません。ディーゼルエンジンと同様、船内で排熱利用するしくみをつくる必要があります。
どんな船に適用される?
燃料が高価であっても迅速性と高出力が求められる船、つまり、軍艦、巡視船、砕氷船、ジェットフォイルなどの特殊な船に限られます。
◆電気推進
電気推進の概要
ディーゼルやガスタービンなどのエンジンで生み出した回転運動のエネルギーを発電機に使用して一旦電気を発電し、その電力でモーターを動かしてプロペラ軸を回すしくみです。エンジンから直接プロペラ軸に接続するよりもひと手間もふた手間も多いですが、その分メリットもたくさんあります。
電気推進のメリット◎
- 船の設計の自由度が上がる
- プロペラの制御がカンタン
- 騒音や振動が少なく、乗り心地がよい
- 有害な排ガスの量が少ない
➡エンジンや発電機はいくつかの小型のものに分割でき、かつプロペラの近くに配置しなくてもよい(モーターと電線でつながってさえいればよい)ため船内のどこに置いてもよく、設計の自由度が上がります。
➡モーターへ送り込む電気信号を調整するだけで、プロペラ回転数や回転の向きなどをカンタンに変えることができます。
➡エンジンや発電機を小型に分割できるため、騒音や振動も分割・打ち消し合いしやすくなります。
電気推進のデメリット△
- エネルギー効率が比較的悪い
➡エンジンが生み出すエネルギーが一旦電力に変換され、さらにモーターを介するため、エネルギーのロスが大きくなります。
どんな船に適用される?
かつては、頻繁にプロペラ回転数を変える必要がある砕氷船や、静かで振動が少ないことが求められる海洋観測船に限って適用されていました。
最近では、
- 大型クルーズ船
- 新型軍艦
- 船内での電気の需要が高い船
などにも適用されるようになりました。
特に、フィンランドのABBという会社がアジポッドという推進器(モーターとプロペラを一体化させた360度回転可能な推進器、ポッドプロペラ)を発明したことで、より広く電気推進が使われるようになりました。アジポッドによって舵が不要となり、また自力で細かい操船ができるためタグボートの手配が減り、エネルギー効率の悪い電気推進でも採算が十分とれるようになってきたからです。
近年では、航海の計器類のデジタル化や、大型クルーズ船のエンターテイメント設備の増加などもあり、船内で使用する電力もますます増えています。発電機を使って大量の電気を発電しその一部をプロペラの回転に使用する、といった効率のよい考え方も出てきています。
◆原子力推進
原子力推進の概要
基本的な原理は蒸気タービンと同じで、蒸気を作り、そのパワーでタービンを回し、プロペラ回転へとつなげるしくみです。
通常の蒸気タービンは石炭や石油を燃やした熱エネルギーで蒸気を作りますが、原子力推進の場合はウランに中性子をぶつけてウランが核分裂するときの放射線(莫大な熱エネルギー)を利用して蒸気を作ります。
原子力推進の場合の燃料は主にウランです。自然界には核分裂しないウラン238が99.3%と、核分裂するウラン235が0.7%の割合で存在しています。このうち、核分裂するウラン235を3~5%にまで濃縮したものが燃料となります。ウラン235に中性子をぶつけるととても不安定な状態となって核分裂し、分裂の際に莫大な熱エネルギーが出ます。この熱で300℃以上の高温水を作り、パイプを通じて蒸気発生器の中の水を蒸気に変えます。ウラン235が核分裂する際に、中から中性子が飛び出してきますので、この中性子がまた別のウラン235にぶつかって核分裂を起こす、という流れです。※核分裂しないウラン238に中性子がぶつかっても分裂せずに吸収されるので、核爆弾のように激しく連鎖せずに、反応をある程度おさえることができます。他にも中性子を吸収する制御棒や反応をおさえるしくみが備わっています。
原子力推進のメリット◎
- 少しの燃料で莫大なエネルギーを生み出せる
- 排ガスが出ない
➡1gのウランで約2tもの重油に相当する熱エネルギーを生み出せます。
➡大気汚染の原因となる有害な排ガス(CO2, NOx, SOx)は出ません。
原子力推進のデメリット△
- 万が一のときは大変な海洋汚染につながるおそれ
- 原子力に対する国民の理解が得にくい
- 経済的とはいえない
➡座礁や転覆などで万が一放射性物質が漏れるとただちに海洋汚染につながり、国際問題にも発展するおそれがあります。
➡原子力を恐れたり不安に思う国民は多く、理解が得にくいのが現状です。
➡放射性廃棄物の処理や廃船(廃炉)のことまで含めて考えると、どれも簡単にはいかず、トータルコストは結局高くなるでしょう。
どんな船に適用される?
・砕氷船(ロシア)
・軍艦、潜水艦(アメリカ、フランス、ロシア)
かつては巡洋艦にも適用されていましたが、攻撃・破壊されることも考えると危険というのもあり、現在ではほとんどが潜水艦にしか使われていません。ウラン燃料は5年~10年単位で交換不要なため、何か月も海に潜りっぱなしの潜水艦には向いているともいえます。(実際には乗組員の食糧が切れたり、精神を正常に保つために浮上しなければならなくなるので、何年間も潜ることはありませんが、技術的には可能ということです)
日本では唯一、1974年に「むつ」という名の原子力観測船が試験的に造られましたが、微量に放射線漏れが発生し国民やメディアから批判殺到、その後補修・改良を繰り返し再び試験できるようになるも、1992年についに航海を終了し、原子炉を取り除きました。いまは原子炉のかわりにディーゼルエンジンを搭載し、海洋研究開発機構JAMSTECの船「みらい」として生まれ変わり、海洋開発に役立っています。※「むつ」についての詳しい情報は、日本原子力研究開発機構JAEA運営のページ『原子力船むつ開発の概要』をご参照ください。
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