プロペラキャビテーション(空洞現象)とは

プロペラを速く回転すればするほど船は速く進むと思われがちですが、ある一定以上に速く回転するとプロペラ先から水蒸気が発生し、かえって船速が落ちるだけでなく、騒音・振動がしたりプロペラが破損したりしてしまいます。

この現象を「キャビテーション(Cavitation 空洞現象)」といいます。

プロペラキャビテーションの発見

プロペラキャビテーションが問題となったのは1894年、イギリス海軍の駆逐艦Daring号の海上運転のときでした。計画では馬力4000、速力29ノットの予定だったのが、実際は馬力3700、速力24ノットしか出ず、激しい振動も伴いました。

その後、プロペラ翼の面積を45%増やすと、目標どおりの速力を出すことができました。

当時はBarnabyさんという人が「プロペラ翼の面積に対する推力過大が原因である」とまとめましたが、それは真の原因ではありませんでした。

プロペラキャビテーションの発生原理

真の原因は、プロペラ翼に流入する海水速度が速くなることで翼の背面の圧力が下がり、ついには海水の気化圧(蒸気圧)以下になった時点で海水が気化して気泡が発生することです。以下で解説します。

まずはプロペラを見てみましょう。
船尾側から見たプロペラ面を正面(圧力面、Face)、その反対側を背面(負圧面、Back)と呼びます。羽の一つに注目してみると、厚みは均一ではなく、水を最初に受ける側は丸みを帯びており、水が抜ける側はシュッと薄くできています。

この丸みを帯びているラインを前縁(Leading edge)、薄くなっているラインを後縁(Trailing edge)といいます。羽の回転方向を考えると、水は前縁→後縁に向かって流れるのがわかると思います。羽の一部を切り取った要素(赤い斜線部分)は翼形状をしており、これに注目してみましょう。

切り取った要素を上からみるとこんな感じです(下図)。プロペラの羽は揚力を生むために、少し角度(迎角)がつけられています。プロペラの羽が回転する=羽に水が流入してくる、と考えてください。

この要素に水が流入すると、上の背面側に回り込む流れは速く、下の正面側を通る流れは遅くなります。ベルヌーイの定理より、流れの速いところは圧力が低く、流れの遅いところは圧力が高くなります。(この圧力差から揚力が生まれています)

流れがとても速くなると背面の圧力はどんどん下がり、いずれはそのときの水の温度における飽和蒸気圧以下に達します。すると水が気化(蒸発)しはじめ、気泡が発生します。通常わたしたちが生活している1気圧のもとでは100℃にならないと水は蒸気になりませんが、圧力をどんどん下げていけば水の沸点も下がりますので、いずれは海水温度でも蒸発し始めるわけです。飽和水蒸気圧のグラフを見るとわかりやすいと思います。(以下)

圧力が下がると沸点が下がり、いずれは海水温度以下となってしまう

富士山の頂上では気圧が低いため水の沸点は100℃ではなく88℃くらいになるというのは有名な話ですね。地上のように熱々で沸騰するわけではないので調理しても生煮えになりうまくできないそうですね。

※このように圧力が低くなるプロペラの背面側でキャビテーションが起こるのが一般的ですが、必ずしも背面のみで起こるわけではありません。流れが乱れているときやプロペラの前の羽による流れの影響を受けるときなど、正面側でキャビテーションが発生することもあります。

プロペラキャビテーションの種類と侵食

キャビテーションは主に4種類あります。

①シートキャビテーション
②バブルキャビテーション
③クラウドキャビテーション
④翼端渦キャビテーション、ハブ渦キャビテーション

①シートキャビテーション(Sheet Cavitaion)

前縁で気泡が発生し、平たくシート状になるキャビテーションです。

②バブルキャビテーション(Bubble Cavitaion)

シートキャビテーションの小さいもので、発生したり消滅したりを繰り返します。

③クラウドキャビテーション(Cloud Cavitation)

水の流れが乱れているときなどにシートキャビテーションがちぎれ、雲状に流れていきます。圧力が低いエリアを抜けて圧力が回復するとこの雲状の蒸気は一気に消滅し(液体に戻り)、その際に大きなエネルギーを放つジェット流のようになり、騒音や振動、侵食(erosion)の原因となります。

④翼端渦、ハブ渦キャビテーション(Tip Vortex Cavitation, Hub Vortex Cavitation)

翼端渦(プロペラ先端から出る渦)やハブ渦(プロペラ中心から出る渦)の内部で低圧部ができ、そこでキャビテーションが起きます。線のように流れていきます。

* * *

③でも記載したように、キャビテーションの気泡が消滅するときに大きなエネルギーを放ち、これが騒音や振動、侵食の原因となります。ひどいとプロペラが損傷するだけでなく船体に亀裂が生じることもあるそうです。

キャビテーションが発生するとプロペラ効率が落ちるだけでなくこのような問題があるため、なるべく発生させないようにすることが大切です。

プロペラキャビテーションを防ぐには

ではプロペラキャビテーションを防ぐにはどうすればよいでしょうか。

ベルヌーイの定理より、プロペラの圧力をこのように表せます。

$$p=p_{0}+\frac{1}{2}\rho U^2 \lbrace 1-(\frac{u}{U})^2 \rbrace$$ $$p_{0}:プロペラ軸深さzの静圧 (= p_{atm}+\rho g z)$$ $$\rho:液体の密度$$ $$u:プロペラの前進速度$$ $$U:プロペラに対する液体の流入速度$$

p(プロペラの圧力)≦pv(飽和蒸気圧)になるとキャビテーションが発生してしまいます。この関係を上の項を用いて表すと、

$$p_{0}+\frac{1}{2}\rho U^2 \lbrace 1-(\frac{u}{U})^2 \rbrace \leq p_v$$ $$\frac{p_{0}-p_{v}}{\frac{1}{2}\rho U^2} \leq (\frac{u}{U})^2-1$$ $$p_{v}:プロペラ位置での同温における液体の蒸気圧$$

このときの左の項をキャビテーション数σシグマ(空洞係数 cavitation number)と呼びます。

$$\sigma=\frac{p_{0}-p_{v}}{\frac{1}{2}\rho U^2}=\frac{p_{atm}+\rho gz-p_{v}}{\frac{1}{2}\rho U^2}$$ $$\sigma:キャビテーション数(空洞係数cavitation \ number)$$ $$p_{atm}:大気圧$$

上の関係式はキャビテーションが発生する条件でしたので、発生しないようにするにはキャビテーション数σをなるべく大きく保っておく必要があります。

たとえば、
zを大きくする
⇒プロペラの深度を大きくする。ただし船の形状によっては限界があり、また大直径プロペラの場合、翼端が水面近くまできてしまうため厳しい。

Uを小さくする
⇒船速やプロペラ回転数を抑えることになるためやや本末転倒ぎみ。

③その他
円弧翼形状のプロペラを使用する
⇒荷重分布をなるべく一様にし、伴流が均一になるようにする
翼面積を大きくする
⇒負圧のピークが小さくなりキャビテーションを抑制できるが、プロペラ効率は下がる。
翼数を増やす
⇒負圧のピークが小さくなりキャビテーションを抑制できるが、翼間干渉が発生し、効率が下がる。
侵食に強い材料のプロペラにする
⇒マンガン青銅やアルミ青銅を使用する。翼厚はなるべく薄くし負圧の分布を均一にする。揚力はキャンバーを持たせることで確保する。

などなど

以上のことからキャビテーションを防ぐ対策として必ずしも1つの解はなく、船種や船型、必要な速度など、様々な要素との関係を考慮して実験や数値シミュレーション(CFD)を行い、船ごとに”最適な”プロペラ条件を決める必要があります

※実験は、キャビテーション数σを意図的に小さくできる「キャビテーション水槽」を用いて行うことができます。→参考『キャビテーション水槽』株式会社西日本流体技研

おまけ~キャビテーションをあえて利用する「スーパーキャビテーション」

いろいろと悪さをするキャビテーションですが、あえて利用することでメリットを得る方法もあります。キャビテーションが発生してはじめて翼の完成形となる「スーパーキャビテーションプロペラ」です。

翼後縁は”くさび型”をしていて、キャビテーションが発生すると気泡を含めた全体が翼形状となり、もはや水と触れなくなることで効率よく高速を出せます。気泡が圧力の高いところで消滅するときも、船尾から離れたあたりとなるためダメージを回避できます。

また、スーパーキャビテーションは魚雷にも使われています。魚雷の先端にキャビテーションを大きく発生させる”キャビテーター”を取り付け、高速条件下で魚雷全体を気泡で包み込ませることで水との摩擦を減らし、飛ぶように速く進ませることができるわけです。

参考文献:
大串雅信(1999)「理論船舶工学(下巻)」海文堂
姫井 弘平, 山崎 正三郎, 山崎 幹夫, 工藤 達郎(2004)「実用型スーパーキャビテーション•プロペラの研究」日本造船学会論文集

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