船の排ガスには大気汚染物質が含まれる
多くの船は重油を燃料として動いています。自動車に使われるガソリンよりも精製度の低い、ドロドロした油です。
この重油を船内で加熱して不純物を取り除いた後エンジンで燃焼させるのですが、その際に排気ガスが出ます。
この排気ガスには、二酸化炭素CO2や、NO, NO2などの窒素酸化物NOx、SO, SO2などの硫黄酸化物SOxが含まれており、それぞれ次のような悪影響があるといわれています。
- CO2 → 地球温暖化の原因になる
- NOx → のど、器官、肺などに悪影響をおよぼす
- SOx → 酸性雨や、ぜんそく・気管支炎などの原因になる
国際条約による厳しい排ガス規制
そのため、国際条約によって排ガス規制が定められています。具体的には、海洋汚染防止を目的とした条約、MARPOL条約の付属書Ⅵ(6) 「船舶からの大気汚染の防止」にて、エンジンの規制や燃料油の規制などが定められています。年々厳しいものになっており、船はなるべく汚染物質を出さないように運転したり、排ガスを後処理してから放出したりと、対応を迫られています。
※2020年1月からはSOx規制の強化が始まり、硫黄濃度の低い燃料油に変更するか排ガスからSOxを除去するスクラバーという設備を搭載するかが迫られています。→『船の排ガスSOxを減らす設備、スクラバーとは 』
重油を燃やすとCO2、NOx、SOxが出る理由
さて、重油を燃やすとなぜCO2やNOx、SOxが出るのでしょうか。重油の成分に注目してみましょう。
重油の成分は主に炭化水素(CnH2n、CnH2n+2など)で、0.1~3.5%くらいの硫黄成分(S)のほか、窒素成分(N)などの無機化合物も含まれています。
CO2が出る理由
重油の主な成分である炭化水素が燃えると、炭素成分(C)に空気中の酸素が結合してCO2となります。
NOxが出る理由
窒素成分(N)が燃えると、空気中の酸素(O)と結合してNOやNO2などの窒素酸化物ができます。これを通称NOxと表し、ノックスと読みます。
窒素成分については、重油に含まれている窒素と自然界の空気に含まれている窒素があります。
重油に含まれている窒素が燃えてNOxとなったものをFuel NOx、自然界の空気中の窒素が高温条件下で酸化反応を起こしてNOxとなったものをThermal NOxと言います。
NOxに関しては2種類の要因があるわけですね。
SOxが出る理由
重油に0.1~3.5%含まれる硫黄成分(S)が燃え、空気中の酸素(O)と結合してSOやSO2などの硫黄酸化物ができます。これを通称SOxと表し、ソックスと読みます。
CO2、NOx、SOxを減らす船の対策
CO2を減らす対策
重油の主な成分である炭化水素を燃やすとどうしてもCO2は出てしまうため、燃料に重油を使うかぎりこれを0にすることはできません。したがって、なるべく少ない重油で運航できるように船の燃費を上げる対策等が取られます。具体的には、
- 造波抵抗の少ない船型にする
- 摩擦抵抗を減らせる塗料を使う
- プロペラ効率を上げる
- エンジンの排熱をうまく利用する
などの対策が取られています。 →『船が進むのを妨げる3つの抵抗とその対策法』
または、いっそ燃料に重油を使うのをやめてLNG(天然ガス)燃料の船をつくる、といった方法もあります。
NOxを減らす対策
NOxが発生する要因は上で述べたように、重油中の窒素と空気中の窒素の2パターンありました。
■重油中の窒素が反応して発生するFuel NOxについては、
・燃料中の窒素成分が少ない、より上質な燃料に変更する(A重油など) などの対策が、
■空気中の窒素が高温反応して発生するThermal NOxについては、
・低速燃焼方式のエンジンを使用する
・なるべく低負荷運転をする(過剰に負荷をかけないようにする)
・エンジンの燃焼室の温度を必要以上に高めないようにする(排ガスを再循環させる、EGR)
などの対策がとられます。
また、これらのような”NOxをなるべく発生させない”対策のほかに、“発生してしまった排ガスからNOxを除去する”対策もあります。SCR(Selective Catalytic Reduction)という設備を用いてNOxを還元しN2(空気中に存在する窒素)に戻してあげるしくみです。
くわしくはこちら『船の排ガスNOxを減らす設備、SCRとEGRの仕組み 』
SOxを減らす対策
SOxの原因は燃料に含まれる硫黄成分でしたので、対策としては燃料の改善と発生してしまった排ガスからSOxを除去する方法の大きく2つが挙げられます。
燃料の改善については、
・硫黄(S)成分濃度の少ない軽油相当の燃料 ”マリンガスオイル”(MGO : Marine Gas Oil)に切り替える
・硫黄(S)成分濃度が国際条約の規制値であるMAX0.5%を満たした新燃料 ”適合油”に切り替える
・いっそLNG燃料の船にする
ことが挙げられます。
発生した排ガスからSOxを除去する対策については、
・SOxスクラバーと呼ばれる脱硫装置を使って排ガスからSOxを除去する
くわしくはこちら『船の排ガスSOxを減らす設備、スクラバーとは』
排ガス規制強化による今後の課題
このように排ガス規制にともなって様々な対策が考えられ実践もされていますが、変更が生じると必ず不都合・課題も出てきます。
■燃料を変更することについての課題は、
・MGOや適合油はこれまでの重油よりも割高な燃料になるため、採算が厳しくなる
・よりクリーンなLNG燃料やバイオ燃料については、港側の設備がまだ十分整っているとはいえない
・2回目以降の燃料油の補充で、エンジントラブルが出てくる可能性がある
など
■排ガス処理装置・設備を導入することについての課題は、
・新たに搭載される装置が多く、乗組員のオペレーションが増える
・各装置のメンテナンス費用が心配
・船のトラブルが起きたとき、原因がこれらの装置なのか船の問題なのか判断しにくい
など
の課題が見込まれています。
トラブルを都度解決しながら何か月、何年も運航し、船の新常識ができていくのでしょうね。
【参考】
・日本船舶海洋工学会誌第71号(2017年3月10日)
・海事総合誌COMPASS(2018年9月号)「迫る、SOx一般海域規制」
・国土交通省 海事局「2020年 SOx規制適合舶用燃料油使用手引書」
・商船三井「大気汚染の防止」
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