ケルビン波形とは
船や水鳥が静かな水面を進んでいったとき、水面にはこのような模様ができます。この模様を、ケルビン波形(Kelvin’s wave pattern)といいます。
物体(船)が進むことで、静かだった水面に波が造られ波形ができあがる、つまり造波抵抗が生じたともいえます。(『船が進むのを妨げる3つの抵抗とその対策法』)
ケルビン波は、単調な平面波をさまざまな角度から複数重ね合わせることで浮かび上がってきます。船が源となって引き起こす波はさまざまな進行方向で伝わっていくからです。このときのそれぞれの平面波のことを素成波(elementary wave)といいます。
素成波の進行方向の角度θと波長λとの関係はつぎの式で表されます。
$$波長λと進行方向θの関係: \lambda=2\pi\frac{{U_\infty}^2}{g}\cos^2\theta$$
$$(g:重力加速度 {U_\infty}:船の移動速度)$$
この関係式から、θの角度によってλが決まってくることがわかります。いろいろなθ-λの値を計算して、実際に描いてみましょう。
1.エクセルを使って、θ-λの値を計算する
Microsoft Excelを開いて、θ=115~180度のときのλの値を5度きざみで求めてみましょう。
ここでは$$2\pi\frac{{U_\infty}^2}{g}=20$$として計算してみます。(約10knot相当)したがって、θ-λの関係式はつぎのようになります。
$$\lambda=20\cos^2\theta$$
のちに素成波の波を表す波頂線を描く際、波頂線は波の0点および山・谷のピーク部分にひきますので、1/4λの値も出しておきます。
※実際の計算式を見たい方はエクセルデータをダウンロードしてください→Kelvin’s wave_calc.xlsx
あとで描くとき、θ=-115~-180度も必要になってきますが、cosθの値は同じになるのでλの値もθ=115~180度の場合と同じとなります。
2.Jw_cadを使って、素成波を描いてみる
Jw_cadというフリーソフトで2次元のCAD図面が描けます。とても便利なソフトですし、使い方もネットにたくさん掲載されているので重宝します。リンクのページの”ダウンロード”の項目からexeファイルをダウンロードできます。
水平・垂直線でX軸とY軸を描いたら、θ=115の直線をひいてみます。この進行方向直線に対して垂直な方向に波頂線を描いていきます。波頂線の間隔は1/4λとなります。θ=115のときのλはλ=3.572で、1/4λ=0.893なので、0.893の間隔で垂線を描いていきます。
※Jw_cadでは、まず原点を通る波頂線をひき、”複線”コマンドで0.893間隔に設定するとカンタンです。その場合θ=115の直線を基準に、右側にしか垂線が引かれなくても問題ありません。
3.素成波を重ね合わせてケルビン波を浮かびあがらせよう
同様に、θ=115~180度まで描くとケルビン波の片側が見えてきました。
これらの線図を”複写”して、X軸に対して反転(”基点”を原点にセットし、”倍率”に”1, -1”と入力)貼り付けすると、θ=-115~-180度までの線図が追加できます。
すると見えてきましたね!
このとき、サイドの波(八の字型)を発散波または拡散波(diverging wave)、X軸を横切る波を横波(transverse wave)といいます。
ケルビン波形は約38度の角内でのみ形成され、その外側では素成波がランダムに重なり、パターンは見えません。
描きはじめは半信半疑ですが、根気よくやっていくとケルビン波が浮かび上がってきて面白いです。ぜひチャレンジしてみてください。